アメリカ大統領選挙、イギリスのEU脱退、コロンビアの国民選挙・・・。
昨年は専門家やメディアの予想に反する政治判断が世界的に多く見られる年であった。
(2017年は大方の予想どおりとなっているが。)
プノンペンの建設ラッシュやイオンモールに集う若者、家族連れを見る限り、
カンボジア社会、経済成長は非常に安定したものであるように見えるが、
10年以上この国を観てきたウォッチャーとしては、
このところの国内政治の動きは無視出来ないレベルに達しつつあるとも感じている。
国政選挙を1年後に控え、
ここで大きな流れをまとめておきたい。
現在のカンボジアの政治状況は、
2008年、2013年の国政選挙結果を踏まえ、
今年6月のコミューン選挙、
来年7月の国政選挙を見据えた与野党の攻防という流れの中にある。
2008年の国政選挙における与党人民党の獲得票は全体の58.1%、
獲得議席数は90議席(定数123)あった。
対する最大与党サムランシー党の獲得議席は26。
内戦、UNTAC、その後の選挙の度のゴタゴタも、
今後は安定した政治体制へ移行していくのだろうと感じた者もいたように思う。
こうした流れを変えたのは、
2013年の国政選挙であった。
人民党が獲得議席を22も減らし68議席、
サムランシー党と人権党の統合による生まれたカンボジア救国党の獲得議席数は55。
与党、政権を脅かすには十分な躍進であったと言える。
Strangioが示したとおり、
野党躍進の最大の理由は若い有権者の増加であると言われている。
950万人の投票者のうち、350万人は18歳から30歳。
150万人は初めて投票権を持った若者であった。
(2008年のこちらの記事とは対象的な状況と言っていい。)
政治家や公務員の汚職・不正、土地の収奪、人権に係る問題などはあるものの、
International Republican Institute (IRI)が、
2006年から実施してきた意識調査を見ると、
国がよい方向へ向かっているという回答は2006年には60%であったのに対し、
2008年までは上昇を続け約80%となって以降、
2013年1月まではほぼ同じレベルで推移して来ていた。
この調査を見る限り、
与党が大きく議席を減らす理由は特に見当たらない。
しかし、若者の多くは野党支持に回った。
普段学生に接し、話をしている立場からすれば、
政策について議論が出来るレベルにある学生は非常に稀である。
当時の新聞記事もその点を指摘していた。
3/4の若者は「民主主義」の言葉は知っているが、その意味は分からないと回答しており、
「分かる」と回答した者の中でも「選挙」「投票」という言葉を使ってそれを説明出来た者は半分程度。
60%の回答者は政治について議論をしたことがないといい、
92%は公務員に対して意見をしたことがないという。
野党が掲げる政策によって生じうる義務(納税)や
影響(人件費高騰による外国資本の流出)等を踏まえ、
野党の政策が支持されていたとは考えにくく、
そうした若者たちが野党支持に回った背景には、
群集心理、お祭りムードが大きく影響した結果であったものと思われる。
それでは、野党支持という群集心理、お祭りムードはどのようにして生まれたのか?
これにはいくつかの仮説、説明がありえるであろう。
現状に対する不満、将来へ対する不安に対し(いつ、どの国でもあり得るだろう)、
救国党が用いた「変化」という分かりやすいスローガンは扇情的であり、
ベトナム人に対する反感を増長させるようなレトリックも有効な手段であったと考えられる。
そこに来て、
選挙直前になっての亡命中のサム・ランシー党首の恩赦、帰国。
この「凱旋帰国」がムードに更なる火を付けたことは疑う余地はないであろう。
また、他国同様、スマートフォンやFacebookの普及も大きく影響したものと思われる。
Facebookによって広がったデジタル「市民運動」を象徴する人物がティ・ソヴァンタであった。
10代の高校生ながらその容姿と反政府的なポストで、
20万人のフォロワーを持っていたとされている彼女の当時のコメントからは(厳密には選挙後)、
若者の間で蔓延していたムードを感じ取ることが出来る。
2013年の国政選挙後、同年11月に実施されたIRIの調査では、
国がよい方向へ向かっているという回答は過去最低の55%にまで低下、
逆に、悪い方向へ向かっているという回答も過去最高の43%と過去最大となった。
2014年にAsia Foundationが行った調査も同様の傾向を示している。
59%の回答者が国が悪い方向へ向かっていると答えた一方、
32%は悪い方向へ向かっていると回答している。
お祭りムードによる気分の高揚が選挙結果に反映されなかったことが、
こうした結果に影響していることは想像に難くない。
こうした事態に大きな危機感を感じたのは当然ながら与党人民党である。
選挙後のデモを鎮圧し、政権を再び確立した後には、
汚職対策といった党内の引き締めや
若者の間における支持拡大にも本格的に動き出した。
昨年も様々な動きが見られたが、
今年6月のコミューン選挙、来年の国政選挙を前に、
2017年も様々な出来事が起きつつある。
与党批判を強める政治アナリストの中には強い圧力がかかっているとされ、
国外脱出の動きも見られる。
国会では裁判において有罪となった者が党首にある場合、
その党は解党されるという法案が成立、
それに先だってサム・ランシー氏が党首を辞任、
副党首の職にあったケム・ソカー氏が新党首に就任するに至っている。
「変化」を求める若者の代表であったティ・ソヴァンタはいつの間にか人民党支持に回り、
サム・ランシー氏に対し名誉棄損の訴えを起こすに至った。
経緯は当然不明ながら、
救国党からは人民党による引き抜きであるとこれを批判している。
政治家のFacebookアカウントに対する「like」の数を巡る論争に見られる通り、
いまだ市民レベルでは建設的な政治議論が行われるレベルに達したとは言い難い状況。
来年の選挙に向けては、
やはりどのような「ムード」が醸成されるのかがポイントになると思われる。
カンボジアウォッチャーの1人としては、
カンボジアの人々が自ら判断し、
よい社会づくりが進むことだけを期待するしかないのだが、
不安要素が蓄積しつつあるのも現実。
まずは来月のコミューン選挙に注目である。
昨年は専門家やメディアの予想に反する政治判断が世界的に多く見られる年であった。
(2017年は大方の予想どおりとなっているが。)
プノンペンの建設ラッシュやイオンモールに集う若者、家族連れを見る限り、
カンボジア社会、経済成長は非常に安定したものであるように見えるが、
10年以上この国を観てきたウォッチャーとしては、
このところの国内政治の動きは無視出来ないレベルに達しつつあるとも感じている。
国政選挙を1年後に控え、
ここで大きな流れをまとめておきたい。
現在のカンボジアの政治状況は、
2008年、2013年の国政選挙結果を踏まえ、
今年6月のコミューン選挙、
来年7月の国政選挙を見据えた与野党の攻防という流れの中にある。
2008年の国政選挙における与党人民党の獲得票は全体の58.1%、
獲得議席数は90議席(定数123)あった。
対する最大与党サムランシー党の獲得議席は26。
内戦、UNTAC、その後の選挙の度のゴタゴタも、
今後は安定した政治体制へ移行していくのだろうと感じた者もいたように思う。
こうした流れを変えたのは、
2013年の国政選挙であった。
人民党が獲得議席を22も減らし68議席、
サムランシー党と人権党の統合による生まれたカンボジア救国党の獲得議席数は55。
与党、政権を脅かすには十分な躍進であったと言える。
Strangioが示したとおり、
野党躍進の最大の理由は若い有権者の増加であると言われている。
950万人の投票者のうち、350万人は18歳から30歳。
150万人は初めて投票権を持った若者であった。
(2008年のこちらの記事とは対象的な状況と言っていい。)
政治家や公務員の汚職・不正、土地の収奪、人権に係る問題などはあるものの、
International Republican Institute (IRI)が、
2006年から実施してきた意識調査を見ると、
国がよい方向へ向かっているという回答は2006年には60%であったのに対し、
2008年までは上昇を続け約80%となって以降、
2013年1月まではほぼ同じレベルで推移して来ていた。
この調査を見る限り、
与党が大きく議席を減らす理由は特に見当たらない。
しかし、若者の多くは野党支持に回った。
普段学生に接し、話をしている立場からすれば、
政策について議論が出来るレベルにある学生は非常に稀である。
当時の新聞記事もその点を指摘していた。
3/4の若者は「民主主義」の言葉は知っているが、その意味は分からないと回答しており、
「分かる」と回答した者の中でも「選挙」「投票」という言葉を使ってそれを説明出来た者は半分程度。
60%の回答者は政治について議論をしたことがないといい、
92%は公務員に対して意見をしたことがないという。
野党が掲げる政策によって生じうる義務(納税)や
影響(人件費高騰による外国資本の流出)等を踏まえ、
野党の政策が支持されていたとは考えにくく、
そうした若者たちが野党支持に回った背景には、
群集心理、お祭りムードが大きく影響した結果であったものと思われる。
それでは、野党支持という群集心理、お祭りムードはどのようにして生まれたのか?
これにはいくつかの仮説、説明がありえるであろう。
現状に対する不満、将来へ対する不安に対し(いつ、どの国でもあり得るだろう)、
救国党が用いた「変化」という分かりやすいスローガンは扇情的であり、
ベトナム人に対する反感を増長させるようなレトリックも有効な手段であったと考えられる。
そこに来て、
選挙直前になっての亡命中のサム・ランシー党首の恩赦、帰国。
この「凱旋帰国」がムードに更なる火を付けたことは疑う余地はないであろう。
また、他国同様、スマートフォンやFacebookの普及も大きく影響したものと思われる。
Facebookによって広がったデジタル「市民運動」を象徴する人物がティ・ソヴァンタであった。
10代の高校生ながらその容姿と反政府的なポストで、
20万人のフォロワーを持っていたとされている彼女の当時のコメントからは(厳密には選挙後)、
若者の間で蔓延していたムードを感じ取ることが出来る。
2013年の国政選挙後、同年11月に実施されたIRIの調査では、
国がよい方向へ向かっているという回答は過去最低の55%にまで低下、
逆に、悪い方向へ向かっているという回答も過去最高の43%と過去最大となった。
2014年にAsia Foundationが行った調査も同様の傾向を示している。
59%の回答者が国が悪い方向へ向かっていると答えた一方、
32%は悪い方向へ向かっていると回答している。
お祭りムードによる気分の高揚が選挙結果に反映されなかったことが、
こうした結果に影響していることは想像に難くない。
こうした事態に大きな危機感を感じたのは当然ながら与党人民党である。
選挙後のデモを鎮圧し、政権を再び確立した後には、
汚職対策といった党内の引き締めや
若者の間における支持拡大にも本格的に動き出した。
昨年も様々な動きが見られたが、
今年6月のコミューン選挙、来年の国政選挙を前に、
2017年も様々な出来事が起きつつある。
与党批判を強める政治アナリストの中には強い圧力がかかっているとされ、
国外脱出の動きも見られる。
国会では裁判において有罪となった者が党首にある場合、
その党は解党されるという法案が成立、
それに先だってサム・ランシー氏が党首を辞任、
副党首の職にあったケム・ソカー氏が新党首に就任するに至っている。
「変化」を求める若者の代表であったティ・ソヴァンタはいつの間にか人民党支持に回り、
サム・ランシー氏に対し名誉棄損の訴えを起こすに至った。
経緯は当然不明ながら、
救国党からは人民党による引き抜きであるとこれを批判している。
政治家のFacebookアカウントに対する「like」の数を巡る論争に見られる通り、
いまだ市民レベルでは建設的な政治議論が行われるレベルに達したとは言い難い状況。
来年の選挙に向けては、
やはりどのような「ムード」が醸成されるのかがポイントになると思われる。
カンボジアウォッチャーの1人としては、
カンボジアの人々が自ら判断し、
よい社会づくりが進むことだけを期待するしかないのだが、
不安要素が蓄積しつつあるのも現実。
まずは来月のコミューン選挙に注目である。
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